荻上直子さん(映画監督)に聞いた自分らしい本棚つくりに欠かせない3冊

本と輪 この3冊

荻上直子さん(映画監督)に聞いた

自分らしい本棚つくりに
欠かせない3冊

2023年1月6日

荻上直子(映画監督)

1972年、千葉県生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業後、渡米して映画製作を学ぶ。2003年、『バーバー吉野』で劇場長編デビュー。2006年、『かもめ食堂』のヒットを皮切りに、翌年の『めがね』とともに独自のジャンルを確立する。2010年、短編小説集『モリオ』(光文社)を刊行。2017年、『彼らが本気で編むときは、』で新境地に挑み、第67回ベルリン国際映画祭でテディ審査員特別賞を受賞。

1
『火の鳥』 手塚治虫

言わずと知れた漫画の神様の名作。手塚先生の漫画に触れるたびに、神様から選ばれてしまった本物の天才がいたんだな、と実感する。物語の壮大さ、緻密さ、エンターテインメントの中にある大切なメッセージ、そして残した漫画の量、とてもとても先生の足元にも及ばないが、物語を作る映画監督の端くれとして、永遠に先生を尊敬し続けます。世界の行方が不安なとき、繰り返し繰り返し読み、人間がちっぽけだと知ることができる。人生において、人類において大切な漫画。

2
『細雪』 谷崎潤一郎

これが文章の芸術というものかと開眼させられた小説。20年前の夏、ドキュメンタリー映画の撮影のためにモンゴルに一か月半滞在した。分厚くて読むのを躊躇していた『細雪』を持っていったら、撮影そっちのけで小説の世界にどっぷりと浸かってしまった。半分までいくと、読み終わってしまうのが惜しくて、一行一行じっくり味わいできるだけゆっくり読んだ。まだスマホがない時代、どうでもいい情報に邪魔されず、大草原に落ちる夕日と、冷えたビールと、美しい文章。これ以上何を望むべきものがあろうか。

3
『まぶた』 小川洋子

小川洋子さんの短編集。この中の「バックストローク」という小説は、儚くて、切なくて、乱暴に触るとすぐに壊れてしまいそうな、透明で綺麗なガラスのような物語。小川さんは、小説を書くというのは、すでに存在している物語を見つける作業だとどこかで言っていた。絶対に見つからない場所にこっそり隠れていたのに、小川さんに見つかってしまってひっそりと出てきてくれたような愛おしいお話。私にも、いつかこんな素敵なお話を見つけられる日が来てほしい。

(出典)ブックリスト「本と輪 この3冊」vol.4 2019.1

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