中山晴奈さん(フードデザイナー)に聞いた
料理にまつわる座右の書3冊
2020年10月30日
中山晴奈(フードデザイナー)
1980年、千葉県生まれ。コミュニケーションツールとしての食に着眼しアート・教育分野で調査・研究及び制作を行う。地域や生産者のメッセージを伝える商品開発のほか、東北食べる通信の連載など。慶應義塾大学SFC研究所研究員。
百合子さんのつくるごはんはとにかく美味そうで、うま味調味料をお湯で溶いたスープでさえ美味そうに思えてくるのがすごい。夫に時折叱られながらも、中央道を飛ばしたり、野次を飛ばしたり、湖で男のように泳ぎ「あの女すげぇ」とささやかれたりする様子は、私たちがたまにやってしまう数々の失言、いきすぎた行いを清々しい風のように後押ししてくれる。食欲がない時、落ち込んでいる時に読むと効果覿面の1冊。
調理の表現に「石鹸のかけら」なんて言葉を使ってもいいのは、鋭い観察眼を持つこの科学者だけだ。地上に降りるとすぐに消えてしまい、ひとつとして同じものがないと言われている雪の結晶を観察してきたからだろうか。科学者の暮らしへのまなざしはあたたかく、丁寧で、そして客観的だ。「サラダをつくるときに、にんにくをパンの固い切れはしでこすって」入れる方法は、どんな名レシピよりも作ってみたくなる。
これが死にゆく人の食べるものなのだろうか。傷みの激しい病と闘いながら病床で食べたものとしてはあまりに多すぎやしないか。アンパンを5つ、8つ、10ともりもりと食べていく毎日。かつおの刺身に飯3杯。山のように美味いものを食べ、排便し、包帯を替え、痛みに悶絶し、庭を眺めながら生きた1日がありありと目に浮かぶ。食べることは生きることなんだと、読み進めるほどに腹が減り、生を意識する作品。