本と輪 この3冊岡本仁さん(編集者)が選ぶ信藤三雄さんはとっくに知っていた3冊

本と輪 この3冊

岡本仁さん(編集者)が選ぶ

信藤三雄さんはとっくに知っていた3冊

2021年1月15日

岡本 仁(編集者)

1954年、北海道生まれ。マガジンハウスに入社後、「ブルータス」「リラックス」「クウネル」などの編集部を経て、2009年に退職。その後、ランドスケーププロダクツに入社。同社の「カタチのないもの担当」として、コンセプトメイクやブランディングなどを担当している。『果てしのない本の話』、『ぼくの鹿児島案内』、『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』など著作多数。

1
『ミスター・フリーダム』 ウィリアム・クライン

好きな写真家はウィリアム・クライン(1928-)と答えることが多いけれど、写真作品以上に映像作品が好きだ。『ポリー・マグー お前は誰だ?』も最高。でも、一番は『ミスター・フリーダム』。パリ在住のクラインによる、祖国アメリカに対する痛烈な皮肉をこめた、動くBD(バンドデシネ)みたいな映画。そして映画と同じくらい面白いのが、エリック・ロスフェルド社から出版されたこの本。パリの書店で水濡れダメージ品が、驚くほどの安値で売られていて、まとめて買って友人たちにプレゼントした。でも、信藤三雄さんはとっくにこの本を知っていて、自分のデザインのリファレンスにしていた。早いなァ。

2
『ヴァレンティーナ』 グイド・クレパックス

イタリアのコミック作家、グイド・クレパックス(1933-2003)による大人向けの作品。サイレント映画時代の女優であるルイーズ・ブルックスに似たヴァレンティーナを主人公にした、エロティックで幻想的なストーリー。何冊か作品集を持っていたが、リヨンの古本屋でヴァレンティーナが連載されていた当時の「LINUS」(ピーナッツのコミックが読める月刊誌。フランスでは「シャーリー」、日本では『スヌーピー』という名で発行されていて、各国、内容は違う)を見つけた時には、踊り上がらんばかりに嬉しかった。でも、信藤三雄さんはとっくにこの本を知っていて、自分のデザインのリファレンスにしていた。まいったなァ。

3
『プラウダ』 ギィ・ペラート

ベルギーのコミック作家、ギィ・ペラート(1934-2008)による作品。こちらもエリック・ロスフェルド社から1968年に出版されたもの。鮮やかな色の組み合わせとサイケデリックな画風に、瞬時にファンになった。ちなみにパリの古書店でこれを見つけたのは、うちのカミさん。その後、1998年に編集長を務めることになった「リラックス」で表紙に使った。『プラウダ』とは別の作品『ジョデルの冒険』から。版権をクリアする過程でご本人が生きていることも確認できた。でも、信藤三雄さんはとっくにこの本を知っていて、自分のデザインのリファレンスにしていた。手も足も出ないなァ。 編註:こちらの3冊は、企画展「ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ」(2018/7/14~9/17)開催に合わせ、信藤さんと親しい岡本さんに選書していただいたものです。「渋谷系」に象徴されるサンプリング的手法を、新鮮なヴィジュアルイメージで表現した信藤三雄さんのアートワークの一端と当時の空気感をうかがうことができます。

(出典)ブックリスト「本と輪 この3冊」vol.2 2018.3

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