佐藤文香さん(俳句作家)が選ぶ
おもしろい俳句の本3冊
2021年5月28日
佐藤文香(俳句作家)
1985年、兵庫県生まれ。2006年、第2回芝不器男俳句新人賞対馬康子奨励賞受賞。第1句集『海藻標本』にて宗左近俳句大賞受賞。ほかに句集『君に目があり見開かれ』、俳句入門書『俳句を遊べ!』、俳句アンソロジー『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』、掌編小説集『そんなことよりキスだった』など。
俳句は音の詩。意味がわからなくても口ずさめれば、もう半分はわかったと言っていい。だから、すべての俳句はこどもにもちょっとわかるんです。〈跳箱の突き手一瞬冬が来る(友岡子郷)〉。この句なんかは、音だけでなく中身についても、こどもの方がよくわかるかもしれませんね。
『めくってびっくり俳句絵本』には蕪村や芭蕉、正岡子規から現代の作家まで、いろんな俳句が収録されています。まずはどんな句か考えてみましょう。ページをめくると少し解説があって、なるほど、と思えるはず。クマの親子や鳥たちと一緒に、親子で驚きながら俳句が楽しめる絵本です。
ぽこんぽこんと浮かんできた言葉たちが、ぶつかり合いとろけ合い、励まし合ってひとつになった。それが、どうにもなんとも絶妙に、田島健一の俳句なのです。〈ただならぬ海月ぽ光追い抜くぽ〉、この「ぽ」はなんだろう。海月?光?空気?それとも、ただの「ぽ」? 〈グリコ横取り僕の横ふかい霧〉、僕は誰とどこにいるんだろう。グリコの赤に迫る霧。僕らの仲は大丈夫かな。謎を孕むことで、切実な印象をもたらす俳句たちを、自分の想像力で感じに行きましょう。
〈流れつくこんぶに何が書いてあるか〉、こんな俳句があっていいのか! 〈蓮根は飛んでみたしと思いけり〉、こんなこと考えたこともなかったなぁ。〈梅の花匂ふや匂ふところまで〉、たしかに言われてみればそうだ。阿部青鞋の句を読むと、ものごとの本質や世界の真理のおもしろさを、軽やかに味わうことができます。本書は、そんな青鞋の俳句のみならず、彼が俳句とどう向き合っていたかを随想や解説によって知ることができる、貴重な一冊。俳句上級者にもオススメです。