本と輪 この3冊永井均さん(哲学者)が選ぶ私を驚嘆させたSF短編3作

本と輪 この3冊

永井均さん(哲学者)が選ぶ

私を驚嘆させたSF短編3作

2021年6月18日

永井 均(哲学者)

1951年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得。日本大学文理学部哲学科教授。自我論・倫理学などを専門分野とする。著書に『マンガは哲学する』、『これがニーチェだ』、『〈子ども〉のための哲学』など多数。2017-18年Web春秋にて「存在と意味 哲学探求2」を連載。

1
『おーい でてこーい』 星新一

これを読んだのは中一のときだった。突然現われた巨大な穴に大量の廃棄物を捨てていくと、ある日突然空からそれらが降ってくるというお話。今これを読み返せば、当時問題になり始めていた公害問題に対する風刺としか読めない。国語の試験ならそう解釈しなければ点がもらえないだろう。しかし、当時の私は、この話を宇宙の構造についての形而上学的洞察だと誤読した。そして私は、宇宙というものは何らかの意味で実際にこういうループ構造をしているにちがいないと感じたのだった。

2
「消去」 筒井俊隆 *『SFマガジンベストNo.2』(絶版)所収

これを読んだのは中二のとき。地球の人口が増えすぎて宇宙に移住するための船団を組んで出かけるのだが、生存できる適当な惑星が見つからず、最後に我々は脳の情報だけになって巨大なコンピュータとつながり、地球上の生活を続けているような夢を見続ける状態で生き残るようになる、というお話。その夢の中にいるのが現在のわれわれだ、というのが話のオチで、私はそれを真剣に受け取り、『おーい でてこーい』で提示されたループ構造の科学的説明だと受け取った。だから、このループは一回ではなく無限に繰り返されるはずだと思った。

3
「ぼくになることを」 グレッグ・イーガン *『祈りの海』所収

これを読んだのは十数年前。ストーリーを短く説明するのは難しいので、本質だけ語るなら、ここでは暗に私が存在するとは何が存在することなのかという問題が提起されている。もしこれを読まれるなら、ここで「私」と言われている特権的視点が(そちらの側だけが)特権的視点である根拠は何か、を考えていただきたい。そしてここから、先の二作よりもっと先鋭なループ構造がありうることを読み取っていただけたら…。

(出典)ブックリスト「本と輪 この3冊」vol.2 2018.3

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